アクアポニックスの日常管理-3-

市販の材料でつくる初心者向けの簡単なアクアポニックスの製作

アクアポニックスの日常管理についての3回目です。

これまでの日常管理すべき内容は次の2点でした。

その1『水漏れの確認と水の追加』

その2『同じ量の植物と同じ量の魚に、毎日、同じ量の餌を与える』

その1は、毎日、アクアポニックスシステムのどこかに水漏れが生じていないか確認をして、蒸発などの理由で減っているポンプ槽の水を、元の水位まで追加して戻しましょう、という内容です。

水漏れだけでなく、ポンプの目詰まりも確認して下さい。

詰まっていた場合、使い古しの歯ブラシでポンプの吸水口をこすってあげると、ゴミは簡単にとれます。

その2は、作物を収穫する際、根こそぎ抜いてしまうと、作物が減った分、肥料成分が使われずに水質が悪化してしまうため、作物と魚と餌の量が毎日、同じ程度の量であり続けるようにしましょう、という内容です。

要するに、毎日、同じ量の餌を、忘れずに魚にあげましょう、という内容です。

もちろん、与える餌の量を、ただ毎日同じ量にすれば良いというわけではなく、つくられる肥料成分の量と、つくられた肥料成分を吸収する作物の量のバランスがとれていることが理想ですが、別にビジネスでアクアポニックスに取り組むわけではないので、バランスがどうこうなどと難しい話を、始める段階で考える必要はまったくありません。

なんなら、始めてしまってからも、別に考えなくても問題はありません。

個人的には、どれくらいの量の餌で、どれくらいの魚を飼育し、どれくらいの作物を栽培するとバランスがとれた状態となるのか、という部分を数値的に突き詰めたいと考えているのですが、そのあたりは筆者の今後の課題です。

また、毎日、同じ量の餌を与えると話しましたが、屋外飼育である場合、水温が下がる冬期は、魚に餌は与えません。

冬は、魚も冬眠に近い状態になりますので、餌を与えても、大半が無駄になってしまいます。

また、濾過バクテリアも、水温が下がると活動を停止してしまうため、アクアポニックスの基本となる濾過活動が行われません。

冬野菜とはいえ、冬は作物の生育もにぶりますので、春から秋にかけて水中に蓄積した栄養素だけで、作物には、冬を乗り切ってもらいます。

『濾過』という言葉が何度も出てきましたが、気になる方は、次章以降をお読み下さい。

試みに今回のシステムを製作して、魚を飼いながら野菜を収穫してみるだけであれば、知らなくても問題はありません。

いつか気になった際にでも、読み進めていただければと思います。

基本的なアクアポニックスシステムは、既に製作できていますので、普通に魚を死なせてしまわないように飼育していれば、結果は自然とついてきます。

『普通に魚を飼育』とは、容器の水が抜けていたり、ポンプが止まって水が循環していないということがなくて、魚への餌やりを忘れないということです。

これまで2点の注意点そのままです。

さて、前置きが長くなりましたが、日常管理についての3回目の話に入ります。

現在、アクアポニックスシステムは、満水状態で水が循環し、魚飼育槽では金魚が泳いでいます。

金魚の数を指定していませんでしたが、スタート段階なので、金魚すくいで使われるような大きさの金魚を2~3尾と想定します。

金魚は、いずれ成長しますが、成魚になっても60リットルタライで十分飼育できる数です。

もっと多くの金魚であっても飼育可能ですが、まだ濾過が十分にきいているわけではなく、作物栽培槽が緑で覆われているわけでもありませんので、少なめにスタートします。

餌は、ほんのちょっとで大丈夫です。

金魚が元気にしていれば、餌をあげる人が魚飼育槽に近づくたび、餌が欲しいと水面に上がってきて、ねだると思います。

その都度、餌を与えていると、老廃物の量が、作物栽培槽の処理能力をすぐに超えてしまいます。

金魚すくいの大きさの金魚2~3尾程度であれば、例えば直径1ミリメートル程度の金魚や鯉の餌を、1尾あたり5~6粒も与えれば良い気がします。

金魚や鯉の餌の袋には、1回に付き5分程度で食べ終わる程度の量を与える、といったような注意書きがありますが、腹一杯になるまで魚に餌を与えて、排泄物で水が汚れた場合は水を交換するという、通常の魚飼育方法の場合の餌の与え方になりますので、趣味で行うアクアポニックスでは同じ対応をしてはいけません。

魚を飽食させるのではなく、腹八分目、腹六分目を維持して、引き締まった体の魚を育てることを目指しましょう。

もちろん、金魚の成長に合わせて、餌の量は少しずつ増やしていきますが、それまでには作物栽培槽内に十分な数の濾過バクテリアが生息し、また、作物栽培槽も緑で覆われた状態になっているはずです。

「え! 同じ量の餌を、毎日与えるのではなかったの?」という声が聞こえてきそうですが、それはアクアポニックスシステム全体が、完全に整った状態の話です。

完全に整った状態とは、作物栽培槽全体に野菜が密集して生えていて、緑色に覆われた状態を意味します。

様々な菜っ葉を密植しました。

今回は、作物栽培槽をそのような状態に持って行くまでの話です。

さて、作物栽培槽の表面は、現在、軽石の上に、循環する水がかかっているだけの状態です。

前々回で、できれば一週間、せめて丸一日以上は、水漏れがないか試運転をして確認して下さいという話をしました。

話は前後しますが、水漏れがないことが確認できたら、そのタイミングで作物栽培槽には、種蒔きをしてしまうという手がありました。

作物栽培槽内に根が張り巡らされていないと、濾過された水が根に接触せず、うまく栄養素が吸収されません。

種蒔きを早く行っておけば、その分、発芽も根の生長も早く始まります。

季節や作物の種類によっては、1週間の試運転期間中に、芽が出ていた可能性もあるでしょう。

なので、この文章を読んでから、アクアポニックスシステムの製作をされる方は、試運転期間中に水漏れがなければ、魚を魚飼育槽に放流する前に、作物栽培槽に種蒔きをしてしまうと、時間が短縮できます。

同様に時間短縮として、別の場所で育てた稲の苗を水田に田植えをするように、作物栽培槽とは別の容器で発芽させた野菜の芽を、作物栽培槽に移植する方法もあります。

もちろん、ミニトマトのように、苗がポットに入れられて販売されている野菜を、作物栽培槽に移植する方法もありますが、販売されている季節が限られ、いつでも手に入るわけではないので、作物栽培槽に種蒔きをする方法が、やはり基本になります。

ちなみに、ポット苗を作物栽培槽に移植する場合は、根の周りについた土を優しく洗い落としてから移植して下さい。

作物栽培槽に土が入ると、目詰まりの原因になったり、水中に溶け込んで、水が泥水になってしまいます。

ポット苗は、土を落とします。。

種を蒔く野菜は、最初は葉物野菜がお勧めです。

無難なところでは、小松菜です。

一般的な野菜栽培の方法については、本サイトでは割愛します。

プランターで野菜栽培をされている方には言わずもがなですし、必要な情報は他のサイトで簡単に見つけられると思います。

また、種の袋を見れば、一般的な栽培方法は書かれています。

アクアポニックス(及び水耕栽培全般)とプランター栽培の一番の違いは、筆者の独断になりますが、野菜の密植が可能な点です。

土を使った野菜栽培の場合、野菜の根は、土中の肥料成分を吸収します。

土中の肥料成分は、栽培前に混ぜておいたり、栽培中に追加で補給しますが、野菜は自分を中心に根が届く範囲の肥料を吸収して育つため、範囲内に他の野菜が存在すると、肥料の奪い合いとなり、成長が悪くなります。

そのため、種蒔き時には多く種を撒いても、成長に合わせて育ちの悪い株を抜き、育てたい野菜に集中的に肥料が行き届くように心がけます。

アクアポニックスの場合は、常時、水に含まれた肥料成分が追加され続けますので、肥料の奪い合いという意味では、根が伸びた範囲内に、他の野菜が存在していてもあまり気にする必要はありません。

空間的に窮屈な部分は抜きますが、土耕栽培の場合よりも、野菜の株と株の距離は、近くても問題はありません。

問題となるのは、水がかかる場所とかからない場所ができてしまう場合です。

根が十分に伸びていれば、作物栽培槽の表面的に水がかからない場所に生えている野菜も、槽の深い位置で水を吸収できますが、種蒔きをしたばかり、芽が出たばかり、といった作物が未成長の段階では、表面的に水に濡れる部分の野菜だけしか、うまく育ちません。

したがって、最初は水に濡れる場所に種を蒔き、芽が出た野菜が成長してきたら、塩ビ管の向きを徐々に変えて、新たに水がかかった場所に次の種を撒くという行為を繰り返しましょう。

作物栽培槽内全体が野菜に覆われた状態が目標です。

プランターで野菜を栽培する際のように、種蒔きをした作物栽培槽に、ジョーロで水を撒く方法も効果的です。

どうせ、毎日減った分の水を補充する必要があるのですから、作物栽培槽内に水を撒いて、作物の根の生長を促しましょう。

根が、表面からは見えないところで槽内に張り巡らされれば、地中の水を吸収できるようになりますので、槽の表面が濡れていなくても大丈夫です。

けれども、そのような状態になる頃には、槽の表面は、作物の葉で覆われた状態となりますので、軽石の表面は、常に日陰で湿っているはずです。

ところで、今回製作した基本のアクアポニックスの例では、作物栽培槽に至る塩ビ管の先端は、何もしていないか、T字継手で二方向に分岐させた状態です。

例えば、二方向に分岐させた塩ビ管の先に、短い塩ビ管とT字継手をさらにつないで水の出口を増やしてあげると、作物栽培槽の表面の水に濡れる部分の面積を広くできます。

また、穴開け工作が必要となりますが、塩ビ管に小さな穴を沢山開けて、シャワーのように空中から作物栽培槽内に水を降り注いで、濡れる面積を増やす方法もあります。

穴開け工作を行わなくても、観賞魚用品に市販のシャワーパイプがありますので、そのような製品を利用する方法を使っても良いでしょう。

市販のシャワーパイプ
塩ビキャップに開けました。。

一般的な野菜栽培の方法については割愛してしまいましたので、一般的ではない筆者の野菜栽培の方法について、お話しします。

筆者が、まだ何も生えていない作物栽培槽を前にした場合は、表面全体に、小松菜などの葉物野菜の種をばらまいてしまいます。

その後、ジョーロで、満遍なく水をかけます。

直射日光に当たると、軽石にかけた水がすぐ蒸発してしまうので、シートや新聞紙で遮光することもあります。

また、軽石なので、プランターで土を使って作物を栽培する場合と違い、かけた水は、あっという間に、作物栽培槽の排水口を抜けて、ポンプ槽に流れ落ちてしまいます。

そのため、思い付く度に、頻繁にジョーロで水をかけます。

やがて、蒔いた種から芽が出ますが、作物栽培槽全体に撒いたはずなのに、水で流されて偏ってしまったのか、芽が出る場所と出ない場所の違いが現れます。

芽が出ていない場所に、追加で種を撒いて、上記のやりとりを繰り返します。

いつの間にか、作物栽培槽全体が芽で覆われ、芽は次第に生長していきます。

窮屈すぎる場所の芽を適当に間引いて、味噌汁などに投入して食べつつ、残った株を育てていくと、気がつけば、全体が緑になるはずです。

引き抜くなり、適当に外葉をむしる等して、毎日、同じ量を少しずつ収穫しつつ、引き抜いて開いた場所には、次の種を蒔くか、窮屈そうな場所の株を抜いてから、空いた場所に移植して育てます。

ところが、上記は理想的な場合の話で、実際にはそうなる前に、アブラムシの大群に襲われて葉が食べられたり、何かの幼虫に襲われて葉が食べられたり、ナメクジに襲われて葉が食べられたり、といった被害が生じます。

ナメクジによる被害

ですから、『毎日、作物の様子を良く見て、虫を見つけたら、潰すか、箸でつまんで捨てる』という作業が、日常行うべき第3の管理です。

余談ですが、口に入る大きさであれば、魚飼育槽に投げ込んでしまえば、幼虫やナメクジは、金魚が食べます。

ナメクジは、割り箸で詰まむと良いでしょう。

虫を殺す薬を使うと、水に流れ落ちた薬が、魚まで殺してしまいますので、使ってはいけません。

虫の襲撃を受ける前に、塩ビ管の上から防虫シートで作物栽培槽を覆ってしまうという対策は、いちいち覆いを外すのが面倒くさいという欠点はありますが、効果は絶大です。

にもかかわらず、どこからか侵入した虫に被害を受けている場合がある点が不思議です。

いずれにしても、野菜に虫が付かないようにする対策が、第3の管理です。

基本のアクアポニックスの、基本の日常管理は、以上の3点です。

けれども、それ以前に大切なのは、魚を死なさずに飼えることです。

早く完全に整った状態のアクアポニックスにならないかと焦らず、魚の餌食いが悪くなるなど、万一、水質が悪化している兆候を感じたら、素直に水替えを行いましょう。

また、完全に整った状態のアクアポニックスになったとしても、そもそも作物栽培槽が1槽では、発生する排泄物の量に対して、植物量が少なすぎるという可能性もあります。

やはり、水質悪化の兆候を感じたら、素直に水を替えましょう。

魚を死なさないことが第一です。

逆を言えば、初期段階で魚さえ死なさずに飼えれば、作物栽培槽の濾過能力が効き始めます。

緑で覆われる段階にいつ辿り着くかはともかく、虫に食べられて葉がなくなりさえしなければ、いつか作物は作物栽培槽を覆うようになりますので、時間がかかるか、かからないかだけの問題です。

魚を無事に飼えるようになったら、虫対策に神経を注ぎましょう。

ゴールは、すぐです。

かにかに