アクアポニックスとは、魚を飼いながら、魚の老廃物を肥料にして、植物を育てる行為だと、最初に話しました。
濾過とは、濾過バクテリアの力を借りて、水中に溶け込んだアンモニアという強毒性の物質を、まず亜硝酸態窒素に、次いで硝酸態窒素という弱毒性の物質に変化させる行為だと、前回話しました。
ところで、肥料って何でしょう?
話は、やはり数十年前の大学時代にさかのぼりますが、肥料の三要素として、「窒素、リン酸、カリウム」という三つの成分の名前を、授業で学びました。
市販の化学肥料の袋には、必ず、窒素5:リン酸10:カリウム5といった具合に、含まれている肥料成分の割合が記載されています。
この例の場合は、袋に入っている肥料の重量に対して、窒素が5%、リン酸が10%、カリウムが5%含まれているという、重量割りの比率を示しています。肥料の重量が10kgであれば、その中に500gの窒素、1kgのリン酸、500gのカリウムが含まれている計算です。
もちろん、植物が成長するためには、この三要素さえあればいいというわけではなく、他にも様々な微量元素が必要となりますが、植物に与えて一番効果が高いとされる成分が、「窒素、リン酸、カリウム」という三つの成分であり、肥料の三要素と言われる由縁です。
作物の種類や、成長の度合いにより、与えるべき三要素の割合は変わるため、ジャガイモ用肥料とか、葉物野菜用肥料とか、専用の肥料も売られています。
当然、アクアポニックスで栽培される植物も、これらの三要素を主な栄養として成長しますが、魚の老廃物を肥料にするというアクアポニックスの仕組み的に、一番ポイントとなる肥料成分は、窒素です。
生物的濾過の過程を経て魚の老廃物は硝酸態窒素に変化しますが、植物の根は、水中に溶け込んだ硝酸態窒素を、肥料として主に吸収するためです。
したがって、アクアポニックスでは、肥料の三要素で言うところの窒素とは、すなわち、硝酸態窒素に他なりません。
前回、アクアポニックスではない、通常の魚飼育の場合は、一定程度、水中に硝酸態窒素が蓄積したであろう頃合いまで魚を飼育し、そこで水を交換するという話をしました。そうしないと、水中に蓄積した硝酸態窒素の毒性により、魚は死んでしまいます。
けれども、アクアポニックス的には、水替えの話は蛇足になるという話もしました。理想的なアクアポニックスであれば、硝酸態窒素は水中に蓄積せず、できた端から、肥料として植物に吸収されて、なくなってしまうからです。
ですから、
第一に、魚の老廃物などの有機物を、すべて硝酸態窒素に変化させられる十分な量の濾過バクテリアの生息。
第二に、つくられた硝酸態窒素をすべて吸収してしまう量の植物の繁茂。
の2点が確保されたアクアポニックスの場合は、硝酸態窒素を取り除くという目的で行う水替えは、不要となります。そう考えれば、水替えの話は蛇足になる、と言った理由が、お分かりいただけるかと思います。
もちろん、植物が水を吸ったり、水面や植物からの蒸発散で、魚の飼育容器中の水は次第に減りますので、水替えではなく足し水(減った水の補給)という行為は必要になりますが、要するに、通常の魚飼育の欠点を、植物栽培で補おうとする行為がアクアポニックスなのです。
かにかに