9.アクアポニックスでのリン酸とカリウム

アクアポニックスの基礎知識

 ところで、肥料の三要素は、窒素、リン酸、カリウムだという話を以前しました。

以前もお見せした、市販肥料の成分表示です。

 窒素については、アンモニアだ、亜硝酸態窒素だ、硝酸態窒素だ、と今まで散々話をしてきましたが、リン酸とカリウムについては、触れていません。

 実は、筆者自身が、あまり必要性を感じていないためです。

 けれども、勘違いをしないでください。

 ここでいう必要性を感じていないとは、作物がリン酸やカリウムを肥料として必要としない、という意味ではなく、筆者が、リン酸やカリウムの施肥については、あまり熱心に取り組んでいないという意味になります。

 アクアポニックスをはじめる人は、魚側スタートか、作物側スタートか、どちらかだという話を最初にしました。

 再三、お話ししていますが、筆者は魚飼いなので、魚側スタートです。

 魚の飼育を続ける上で、水替えの手間をいかに減らすかというところから、作物栽培に入っています。

 濾過の過程で、水槽内に蓄積してしまう硝酸態窒素を、水替えをしないで、なくす方法はないかという模索が、アクアポニックスに繋がっています。

 そのため、作物にとって窒素は必須栄養素ですが、筆者にとって、窒素は邪魔な存在です。水中に窒素は必要ないと考えています。

 同じ理由から、水中にリン酸もカリウムもいらないと考えています。

 筆者にとっては、魚の飼育が第一ですから、作物はとれてもとれなくても、正直どちらでもいいとすら思っています。

 もちろん、できた作物は、おいしくいただいていますが、主目的は魚の飼育なので、作物は副産物であり、おまけ要素です。

 とは言ったものの、逆説的ですが、水中の硝酸態窒素をなくすためには、健康な作物の存在が必要です。

 そのため、作物には窒素だけという偏った状態ではなく、リン酸もカリウムも吸収して、健康に育って欲しいとも考えています。

 難しい逆説です。

 ところで、アクアポニックスの定義とは、どのようなものだったでしょうか?

 魚を飼いながら、魚の老廃物を肥料にして、植物を育てる行為です。

 魚の老廃物とは、ようするに魚の糞尿です。

 窒素の場合、糞尿に含まれる窒素関連の成分(元素記号で言うとNです)を、濾過バクテリアが、アンモニア→亜硝酸態窒素→硝酸態窒素と変化させていくわけですが、さかのぼれば、もともとの窒素関連の成分は、魚の飼料に含まれていたものです。

 リン酸(元素記号で言うとPです)やカリウム(元素記号で言うとKです)の場合も理屈は同じです。

 もともと飼料に含まれていたリン酸やカリウム由来の成分が、魚の体内を経て、または餌の食べ残しとして水中に溶け込み、何らかの形で作物に吸収される流れです。

 であるとすると、リン酸については、実はあまり不足を心配する必要はありません。

 窒素と同じく、飼料中にはリン酸の関連成分が多く含まれていますので、魚への通常の餌やりの過程で、リン酸も水中に供給されています。

 問題はカリウムです。

 カリウム関連の成分は、飼料中に、あまり含まれてはいないため、通常の餌やりを行うだけだと、水中に、あまりカリウムは供給されません。

 したがって、作物にカリウム不足の症状が発生する場合があります。

 もし、水中にカリウムを供給したい場合は、単純にカリウム系の化学肥料の施用が、簡単な対策です。

 熱帯魚が泳ぐ水草水槽の水草用に、専用のカリウム肥料も販売されています。

 最初の項で、筆者がアクアポニクスを人に説明する際の言葉として、『水耕栽培の有機栽培のようなもの』という説明をしている、という話をしました。

 あくまで『のようなもの』です。

 筆者の場合は、本気の有機栽培ではありません。

 魚に害が及ぶ恐れがあるので農薬こそ使っていませんが、病気の魚が発生した場合は、病魚を別水槽に隔離して、投薬治療を行うことに躊躇はしません。

 カリウム肥料についても試行錯誤で、水草用の液肥を試しに使ってみる場合もあれば、使わずにすませる場合もあります。

 どちらかと言えば、使わずに作物任せにしてしまう場合が多いです。

 なので、作物の中でも、カリウムを多く必要とする作物を育てる場合は、筆者のやり方のアクアポニックスでは、あまり上手にはできないかも知れませんが、窒素やリン酸主体の作物であれば、まあまあの結果は得られます。

 売り物の水準には達してはいないかも知れませんが、家で食べる分には及第点です。

 筆者の経験上、家で食べる分の小松菜などの葉物野菜を栽培する程度であれば、リン酸やカリウムがどうこうなどと考える必要は、まったくなく、魚飼育の水だけで栽培できます。

 養分を自身の中に蓄える芋類や根菜類となってくると、種類によってうまくいったり、いかなかったりです。

 どんな作物が上手にできて、どんな作物が上手にできないかは、筆者自身が、まだまだ試行錯誤をしているところなので、具体的には、栽培日記として、今後、紹介していくつもりです。

 もし、ビジネスアクアポニックスや植物工場での水耕栽培であれば、できた作物を商品にするため、カリウムが不足しないよう、何らかの形でのカリウム添加一択だと思いますが、ホビーアクアポニックスの場合は自由気ままです。

 あとは趣味とかこだわりの領域です。

 有機農法であれ、慣行農法であれ、どちらが正しいとか間違っているというものではないと思うので、有機質肥料以外の使用は絶対イヤだという方は、そうされれば良いし、試しに成長が良くなるか、カリウムを与えてみようという方は、やはりそうされれば良いと思います。

 さて、ここまでグダグダと『アクアポニックスの基礎知識』と称して、理屈っぽい話をしてきました。

 次回から、実践編として、実際のアクアポニックスシステムの製作と管理の話に入りたいと思うのですが、いつかまた、この基礎知識編を、もう一度、読み返してもらえればと思います。

 もちろん、一度と言わず、何度でも腑に落ちるまで読み返してもらえれば、なおよいです。

 というのは、この基礎知識編は、濾過であったり、肥料であったり、アクアポニックスを実際に行うにあたって、理屈を知らないで行うのと知った上で行うのでは、実践でうまくいく度合いに差が出るだろうな、と思われる内容をお話ししています。

 とはいえ、現実には、濾過の話にしても肥料の話にしても、どちらが先でどちらが後というものではなく、同時進行で行われています。

 筆者としては、一応、順を追ってご説明をしてきたつもりではあるのですが、どうしても、この話をする際には、本当はこちらのことを既に知っていてもらうと理解しやすいのにな、という部分が発生しています。

 また、話だけ聞いていても身につかないけれども、実際に取り組んでみれば、筆者が何を言いたかったのか、腑に落ちるという点もあると思います。

 そのような理由から、ここまで一通りお話ししたアクアポニックスの基礎知識について、全体像を踏まえた上で、もう一度目を通していただくと、初見では、ぴんとこなかった内容も、ああそういうことが言いたかったのね、と、より深く理解していただけるはずです。

 実践編では、筆者が実際に行ってきたアクアポニックスシステムを見本に、失敗例も成功例も含めて、製作の仕方や管理の方法についてお話しするつもりです。

 けれども、そのシステムはあくまで筆者の自宅環境にあわせて製作した内容であるため、丸ごと真似するだけの取り組みをするよりも、皆さんの環境により合うように各自でアレンジしていただいた方が、もっとうまくいくはずです。

 その際、基礎知識でお話しした内容を理解していると、やっていいアレンジと、やってはいけないアレンジの判断と工夫が、つきやすくなります。

 それでは、基礎知識編は、ここで終了です。

 次回から、実践編です。

 能書きはもういいや、という方は、(実際に執筆した順番は逆ですが)第0章で紹介した簡単なアクアポニックスシステムを製作して、実践に取り組んでもらっても構いません。

 あなたのアクアポニックスが、うまくいきますように。

 かにかに