120リットルタライ(アクアポニックスの基本の飼育器具)

アクアポニックスの基本の飼育器具

 今ではそのような使い方も珍しくはありませんが、20年あまり前、始めてホームセンターでこの種の洗濯用のタライ製品を発見した際、リットルあたりのコストパフォーマンスの高さに、魚飼育容器としての可能性を見いだし驚喜しました。

 当時、一般的な60センチメートル規格水槽(容量54リットル)が、ホームセンターでの特売時に約2000円であったのに対し、複数のホームセンターをはしごして比較した結果、80リットル丸型タライは、最安値のホームセンターで1480円でした。

 60センチ水槽が、2000÷54で容量1リットルあたり37円であるところ、80リットル丸型タライは、1480÷80で容量1リットルあたり18.5円と半額です。

 容量の数字はうろ覚えなので、もしかしたら80リットルではなく、110リットルか75リットルであったかも知れません。110リットルだとしたら、1リットルあたり13.5円です。75リットルだとしたら、1リットルあたり19.7円です。いずれにしても普段使っているガラス水槽よりも、タライのほうが圧倒的に安く大きかった衝撃を覚えています。

 材質上、ガラス水槽は割れたり、長く使用していると接着面のシーリング材が剥がれて水漏れを起こす場合がありますが、このタライの場合、材質がポリプロピレン製であるため、頑丈です。

 また、ガラス水槽は、空でも重量がかなりあります。筆者の場合、60センチ水槽は1人で持てますが、90センチ水槽は1人では持ち運びができません。

 一方、タライは、軽くて持ち運びも楽々です。

 一つしか持っていませんが、容量1000リットル入りの大型タライでも、引きずったり転がしたりしながら、筆者1人でそれなりに移動できます。

容量1000Lの大型タライ

 軽くて頑丈である点が、この種のタライの最大の長所です。

 実際、筆者が最初に購入した80リットル丸型タライは、今でも現役です。

 惜しむらくは、形が丸型であるために、複数並べて使用した場合に、三角形の無駄な隙間ができてしまうことでしたが、その後(もしかしたら見かけていないだけで当時からあったのかも知れませんが)120リットル角型タライが販売され、横に並べた際に隙間ができる欠点はなくなりました。

丸型タライ。複数並べると三角形の隙間ができます。

 90センチ水槽と120リットルタライの容量を比較した場合、一般的な90センチ規格水槽が90センチ×45センチ×45センチで約180リットルであるのに対し、120リットルタライは、もちろん120リットルなので、約三分の二です。

 しかしながら、水面の面積を比較した場合、90センチ水槽が90センチ×45センチで0.4平方メートルであるのに対し、120リットルタライは、最上部の外寸が86センチ×66センチで0.56平方メートルです。内寸は若干小さくなりますが、90センチ水槽の面積とほぼ同じか、広いぐらいです。

 魚の飼育環境として、水量の多さは最重要項目ですが、水面の面積も同様に大切です。

 水面が広ければ広いほど、水と空気が接触する面積が広いということになりますので、空気中の酸素が、まんべんなく水に溶け込みやすくなります。肺魚などの特殊な魚を除く大抵の魚は、水中に溶け込んだ酸素しか呼吸できませんので、水面の広さは、水量と同じくらい大切なのです。

 また、アクアポニックスでは、水面が広いと、水面に植物を栽培する筏を浮かべる方式の栽培方法に取り組もうとした場合、筏の面積を広くできますので、その分、植物の栽培面積も広くとれるという利点もあります。

 ところで、先ほどガラス水槽は割れやすく、ポリプロピレンタライは頑丈だという話をしました。

 にもかかわらず、穴開けは、タライのほうが容易です。

 ダイヤモンドコアカッターという専用のドリル刃とドリルがあれば、ガラスに穴を開ける加工はできますが、経験を積んでいないと、かなりの確率で穴が開く際の衝撃で、ガラスが割れたり、ひびが入ります。

ガラスに穴を空ける様子。失敗するとガラスが割れて水槽が台無しです。

 かといって、ガラス水槽に穴を開けまくって練習をするわけにはいきませんので、いつまでたっても経験は積めません。

 一方、ポリプロピレンタライであれば、ドリルやホットナイフで簡単に穴が開けられます。

タライは無造作に穴を開けられます。

 筆者の方法のアクアポニックスシステムでは、容器に穴を開けて、塩ビ管で接続をする加工を多用しますので、大容量で簡単に穴開けができるタライは、理想的な容器です。

 もちろん、タライにも欠点はあります。

 本来、水槽は、透明なガラス越し(製品によっては材質が透明なアクリルという場合もありますが)に、横から魚を見るためにつくられています。

 対して、タライは、魚飼育用の容器ではないため、池と同じで、上からしか、魚が見えません。

 鑑賞魚用語に、魚を上から見る「上見(うわみ)」、横から見る「横見(よこみ)」という言葉がありますが、タライの場合は、上見しかできない点が、鑑賞面での欠点となります。もっとも、魚からすれば、横からじろじろと見られる行為はストレスになるでしょうから、タライのほうが、幾分は人目を気にせず、安心して生活できると言うかも知れません。

 まとめると、水槽は透明なので、横から魚を見ることができるが、重くて割れやすく、値段が高い。また、穴開け加工が困難。一方、タライは上からしか魚を見られないが、軽くて丈夫で安価。その上、簡単に穴を開けられる。

 ということになります。

 ちなみに、筆者が紹介しているアクアポニックスシステムでは、後付けで二段式グローベッド槽の追加が可能なため、飼育水量の不足は、挽回できます。

 約20年前、池ではなく、水槽で錦鯉を飼育する行為に、『水槽錦鯉』と名付けて、「まず60センチ水槽で10センチほどの錦鯉の幼魚を飼育しましょう。大きくなってきたら、90センチ水槽にステップアップしましょう」という、水槽での錦鯉の飼育方法をホームページで紹介していたのですが、今ではすっかり『タライ錦鯉』にすり替わってしまいました。

タライ錦鯉の様子。写真では30~40センチの鯉が3尾います。

 120リットル角型タライが一つあれば、稚魚・幼魚期から成魚になってまで、終生、錦鯉を飼育できます。

 もちろん、メダカのような小さな魚だって飼育可能です。

 魚飼育は、アクアポニックスシステムの根幹に当たります。 ホビーアクアポニックスの基本の魚飼育容器として、120リットルタライを推奨します。