アクアポニックスの日常管理-2-

市販の材料でつくる初心者向けの簡単なアクアポニックスの製作

本サイトの総合的なタイトルは『水耕錦鯉』です。

とはいえ、『はじめに』の項で、飼う魚は『水耕金魚』でも『水耕メダカ』でも何でも良い、という話をしています。

ここしばらく、観賞魚業界で一番勢いがある魚は、メダカです。

したがって、現在、新たに観賞魚飼育を始める方が選ぶ魚の多くは、メダカになるでしょう。

メダカならば、簡単に飼えそうという気持ちもわかります。

実際に普通に飼って、産卵させて、いっぱい殖やして、という楽しみ方をするのであれば、錦鯉や金魚よりも、メダカ飼育のほうが簡単です。

そのため、「では、魚飼育槽にメダカを放しましょう」と言いたいところなのですが、メダカでアクアポニックスを行う場合、今回のシステムでは、少し問題があります。

というのは、ご承知のとおり、メダカは小さい魚です。

また、自然界であれば、水の流れに乗ったり逆らって、水田から小川へ、小川から水田へといった移動を、季節に応じて、当たり前のようにする性質があります。

したがって、今回のシステムでメダカを飼育していると、水の流れに乗ってサヤ管の下の穴を抜け、さらに塩ビ管から流れ落ちて、いつのまにかポンプ槽へと移動してしまう恐れがあります。

その状態でとどまっていてくれれば、戻せば良いだけなのですが、さらに丸籠の縁を越えて、ポンプに吸われてしまうといった事故が起こりかねません。

ですから、メダカが、流れ落ちていかないようにする工夫を、今回のシステムに付け加える必要があります。

もう一点、問題があります。

やはり、メダカは小さい魚です。

成魚になっても、体重1グラムとか、その程度です。

したがって、1尾あたりに必要な餌の量は少なく、必然的に、1尾あたりの排泄物の量も少なくなります。

ところで、アクアポニックスでは、魚の排泄物を濾過により作物が吸収できる状態に変えることを、基本としています。

そのため、まとまった量の排泄物が、毎日同じくらいの量、発生してくれる必要があります。

例えば、あるアクアポニックスシステムでは、体重100グラムの魚に十分な餌を与えた時発生する排泄物の量が、そのシステムで栽培している作物が消費する栄養素の原料として、ちょうど釣り合いがとれている状態だとします。

金魚であれば1尾あたりの体重が100グラムというのは驚きませんが、メダカで体重100グラム分だと、1尾1グラムならば100尾、1尾0.5グラムならば、200尾となります。

水の量が同じ場合、1尾の魚をゆったりと飼育する管理と、多くの魚をぎっしりと飼育する管理では、1尾の場合のほうが遙かに簡単です。

魚の数が多くなると、強い魚、弱い魚といった違いが出てきますので、つつかれて怪我をしたり、病気で死んでしまう魚が出てきます。

病気は、他の魚まで蔓延するかも知れません。

また、闘争は特になくても、素早く上手に餌を食べる魚と、のんびりしていて他の魚との餌争いに負けてしまう魚の違いもあります。

のんびりとした魚は、次第に痩せていき、死んでしまうかも知れません。

だからといって、のんびりとした魚に十分な量の餌が行き届くほど多く餌を与えると、食べ残された餌まで濾過をする必要が生じて、アクアポニックスシステムで濾過できる処理量や、作物が消費できる栄養素の量を超えてしまうかも知れません。

余った分の栄養素は水質を悪化させてしまい、ある許容値を超えた段階で、1尾単位ではなく、ほぼすべての魚が死んでしまう状況へと繋がります。

ビジネスとして行うアクアポニックスであれば、冷徹に『減歩率が何%』と、死ぬ魚が出ることを最初から計算に入れて、存在しない物として餌の量や生産する作物の量を考えますが、我々が行おうとしているのは、『趣味として魚を飼いながら副産物に野菜を得ましょう』というホビーアクアポニックスなので、方向が違います。

逆に、メダカをうまく飼えている場合には、また、違う問題が発生します。

メダカの成魚は、暖かい季節には、ほぼ毎日産卵します。

魚飼育槽の中で、毎日、メダカが産卵していても、何もしなければ、その卵は、メダカに食べられてしまうだけですが、メダカ飼育の楽しみの一つであり大きな部分は、産卵をさせて孵化をさせて、稚魚を大きく育てていくという点にあります。

それに、毎日産まれる卵を、見殺しにし続けるのは忍びありません。

やはり、孵化させて、稚魚を育てたくなってしまいます。

メダカの産卵と孵化は簡単です。

メダカのいる魚飼育槽に水草や市販のメダカ用産卵床を投入しておき、翌日なり、数日後に取り出して、水を貯め置きにしておいた水槽やバケツなどの別の容器に移すだけです。

10日から半月ぐらいで、稚魚が孵化して泳ぎ出します。

市販の粉餌や、粒餌をすりつぶして与えましょう。

約二ヶ月で、成魚になります。

問題は数です。

メダカの成魚が100尾いたとして、雌雄が同数であれば、メスは50尾です。

実際は、もっと多く産卵する場合もありますが、計算を簡単にするため、メス1尾が1日に10粒の卵を産むとすると、毎日500粒の卵が産まれます。

産まれた卵の内、半数が孵化に至り、さらに半数が成魚まで育つと仮定します。

計算式は、500×0.5×0.5=125尾/日です。

二ヶ月後には、毎日、元親を超える数のメダカが、増えていく計算になります。

もちろん、机上の空論で、現実には、スペース的な問題や管理の手間などから、計算ほどうまく増えていくことは難しいですが、その分を差し引いたとしても、メダカを上手に飼育していると、基本的にメダカの数は増えていきます。

さあ、どうしましょう?

ある程度ならば、元々の魚飼育槽に入れても大丈夫ですが、魚飼育槽のメダカが増えると、必然的に餌の量と排泄物の量も増えて、濾過されて生じる栄養素の量も増えます。

その栄養素をすべて作物に吸収させるためには、作物栽培槽を増設しなければなりませんし、そもそも魚飼育槽にも増設の必要性が生じています。

アクアポニックスは、魚の量と作物の量の適正なバランスで成立します。

そう考えると、飼育する魚の増減が頻繁に生じる恐れのあるメダカによるアクアポニックスは、他の魚より、ハードルが少し高くなるため、手始めに行うアクアポニックスとしては、お勧めしません。

メダカによるアクアポニックスについては、いずれ、「メダカを飼って野菜をつくろう-メダカポニックスのススメ-」として、整理してご紹介をしたいと思います。

ところで、本サイトは、『いざという時のためにアクアポニックスで自家消費用の野菜を栽培して、もし、余ったならば、ご近所さんにお裾分けしたり、子ども食堂やフードドライブの取り組みに提供してみるのはいかがですか』という、テーマを掲げています。

先程の増えすぎたメダカの行き先問題として、例えば、子ども食堂の庭先でフリーマーケットや農産物直売所のようにメダカを販売したり、フードドライブのイベントで、金魚すくいならぬメダカすくいを実施するなどして、子ども食堂やフードシェアリングを知らなかったり、あまり関心のない方に取り組みを知ってもらいつつ、メダカの売上げを運営費の足しにするという手法は、可能性として、「ありなんじゃないかな」と、密かに検討の余地があると思っています。

もし、ご関心とご共感を覚えた方がおられましたら、ご連絡下さい。

微力ながら、ボランティアでお手伝いできるかも知れません。

話がずれました。

以上のように、魚の増減が激しくなる恐れがあるため、手始めにアクアポニックスに取り組んでみようといった場合に飼育する魚として、メダカはハードルが上がります。

次に身近で、飼育が簡単な魚となると、やはり『水耕錦鯉』の看板に偽りはありになってしまいますが、金魚をお勧めします。『水耕金魚』です。

先程、「金魚すくいならぬメダカすくい」という言葉を使いましたが、金魚すくいは、お祭りで子どもが大好きな遊びの一つです。

筆者の家には、かつて息子が、失敗しても一匹もらえる金魚すくいのおまけとしてではなく、生まれて初めて自分で本当にすくって家に来た金魚の子孫たちが、今でも沢山泳いでいます。

金魚すくいの金魚であれば、既に飼育中の方もおられると思いますので、今回は、そのような金魚を魚飼育槽に放すことにします。

放す際は、もともと金魚がいた場所の水と、魚飼育槽の水の温度に、大きな差がないようにご注意下さい。水温差で、体調を崩してしまう場合があります。

魚飼育槽に金魚を放したら、魚飼育槽の製作の項で必要な材料としてあげていながら、今まで使用していなかった網を使って、魚飼育槽に蓋をして下さい。

金網で魚飼育槽に蓋をします
蓋が外れないようタライの穴に固定します

魚飼育槽に蓋をする理由は、二つあります。

一つ目は、魚が飛び出してしまわないため。

二つ目は、魚が獣や鳥に食べられてしまわないため、です。

一つ目の理由は、説明の必要はないと思います。

金魚に限らず、錦鯉もメダカも、よく跳ねます。

特に今までと飼育環境が変わった場合は、顕著に跳ねますので、魚飼育槽から飛び出してしまわないよう、蓋が必要です。

一つ目よりも油断ができないのは、二つ目の理由です。

筆者は二度、アライグマに錦鯉を食べられました。

繊維製の網は、爪や歯で千切られ、金網であっても、タライに縛って固定しておかないと、外されてしまいます。

アライグマは、タライの中に手や頭やもしかしたら体ごと入って魚を追い回し、恐らく、タライの外に飛び出した魚を捕らえて食べてしまいます。

筆者も普段は、金網を園芸用の針金でタライの穴に縛って固定していたのですが、何かの理由で蓋を外した後、面倒くさがって縛り直していないまま、何日かそのままにしていたところ、朝起きたら、タライの中に半分蓋が沈んで、食べ残された錦鯉の尾の先が、家の裏に落ちていました。

網の下には、魚が泳いでいたはずなのですが……。
このような悲劇がおきませんように

筆者の家は、特に田舎にあるというわけではありません。

むしろ都市部である方が、近年アライグマによる農作物の被害は増えているようです。

自治体に捕獲されたアライグマ。絶対に指を出してはいけません。

そのような悲劇を招かぬためにも、魚飼育槽には、必ず、蓋をして下さい。

話の脱線が続きましたので、元に戻します。

アクアポニックスで毎日行うべき管理の二点目は次のとおりです。

『同じ量の植物と同じ量の魚に、毎日、同じ量の餌を与える』

この『同じ量』という部分がポイントです。

魚の数と大きさが同じであれば、毎日、与える餌の量も同じになります。

そうであれば、濾過を経てつくられる栄養素の量も同じになるため、その栄養素で育つ植物の量も、同じである必要があります。

要するに、収穫だからといって作物を根こそぎ抜いてしまい、また一から種蒔きをして育つのを待つ、という行為をしてはいけないという話です。

作物が育つのを待っている間も、魚には同量の餌を与え続け、濾過も行われ続けていますので、水中には栄養素が蓄積され続けていきます。

けれども、栄養素は植物にとっては肥料でも、魚にとっては毒になりますので、早晩、魚は体調を崩して、下手をすると死んでしまうかもしれません。

そうならないため、一度にすべての作物を収穫してしまうのではなく、半分や四分の一だけにするとか、葉物であれば、外側の大きな葉だけ収穫する、といった工夫をして、作物栽培槽の植物量に、劇的な変化が生じないようにしてください。

作物栽培槽が複数あれば、一槽ずつ丸洗いしても、負荷が減らせます。

そのために、以前紹介したアクアポニックスの基本形では、魚飼育槽一槽に対して、作物栽培槽三槽をモデルケースとしています。

以上が、アクアポニックスで毎日行うべき管理の二点目になります。

次回へ続きます。

かにかに