市販の材料でつくる初心者向けの簡単なアクアポニックスの基本形について、前回、魚飼育容器の水が減ると、ポンプに空回りが発生したり、水がなくなって魚が死んでしまう恐れがあるというお話をしました。次の図のとおりです。
魚飼育槽の水が減る原因は、ぱっと思い付く限りでもいくつかあります。
例えば、
①グローベッドの濾材が目詰まりを起こして、グローベッド内に水が溜まってしまったため。
②蒸発したため。
③作物が吸い上げたため。
④塩ビ管の接続部が外れたり緩んで、そこから漏れたため。
⑤水跳ねの勢いが強すぎて、水飛沫として水が外へ漏れたため。
などです。他にも可能性は色々あります。
①は、前回、お話ししました。対策は、濾材を水洗いするしかありません。
④と⑤は、毎日システム全体をよく観察していれば対応できます。
配管が緩んでいるようならば、強く接続し、水飛沫が強いのであれば、塩ビ管の向きを変えるとか、水飛沫にカバーをするとか、そういった手が取れます。
けれども、②と③は防げません。
水が減る量は、季節と植物の量に左右されますが、目で見てわかる範囲かはともかく、いずれにしても毎日、少しずつ必ず減ります。
一番簡単な対策は、減った分の水を足すことです。
毎日、魚に餌を与えるのが当たり前であるように、毎日、減った分の水を足すのは、アクアポニックスの基本的な管理の一つです。
また、単純に魚飼育容器の大きさを、大きくしてしまう方法もあります。
水の容量が倍になれば、減る水深は、半分になります。
とはいえ、魚飼育容器を深くしてしまうと、ブロック積みを高くする必要が出てくるため、危険が生じます。
また、魚飼育容器を横に広げて面積を大きくしてしまうと、場所をとります。
筆者がお勧めする対応は、次の図のとおりです。
グローベッドを、もう一つ設置して、常時、水を溜めておき、そちらを魚飼育容器とします。
魚飼育容器から、ポンプがある容器へ流れる水は、魚飼育槽をあふれた水だけが流れ落ちていく仕組みにしておけば、魚飼育容器の水深は、常時、一定に保たれるため、水が減り、魚が水から出てしまう心配はありません。
魚飼育容器をあふれた水だけが流れ落ちる仕組みについては、後でお話しします。
上の図を、真上から見た場合が、下の図です。
点線で描かれた四角形がポンプ槽、実践で描かれた四角形が、魚飼育槽と作物栽培槽(グローベッド)です。
ポンプで汲み上げた水を二股に分岐させ、一方は作物を栽培する容器へ、他方は魚を飼育する容器へ流しています。
どちらの水も最終的に同じポンプ槽へ戻りますので、再び、ポンプで水を吸って循環させる仕組みです。
さらに一工夫した案が次の図です。
グローベッドを四つ設置して、三つを作物栽培容器、一つを魚飼育容器とする方法です。
先程と同様に、点線で描かれた四角形がポンプ槽、実践で描かれた四角形が、魚飼育槽と作物栽培槽(グローベッド)です。
ポンプで吸い上げた水を、それぞれの容器に配水するためには四方向に分割させる必要がありますが、二股分岐を二回繰り返せば対応できます。
もう一工夫して、二股分岐を三回繰り返して、最終的に二方向から流れてきた水の流れを結合させておけば、管内に水が満たされ、どちらか一方のみに水が多く流れたり少なく流れるという欠点を解消できます。
また、穴開け工作なしという趣旨には反しますが、以前お話しした分水筒の工夫を利用する方法も有効です。
さて、それでは後回しにしていた、魚飼育容器の水が一定の水深を保つようにする仕組みについて、お話しします。
次の図は、前回お話しした、グローベッドの排水口部分の拡大図です。
砂利が、排水口に詰まらないよう籠を逆さにかぶせていますが、もし籠と砂利がなければ、排水口部分は、次の図のとおりです。
もともとあった排水口の穴に、口径16mm×口径13mm異径ソケットがはめられていて、水は口径16mmの側から流れ込んで、口径13mmの側から流れ出します。
この場合の水深は、口径16mm側の正方形の高さです。
水は、グローベッド内に正方形の高さまで溜まりますが、その高さを越えた水は、あふれてソケットの中を流下します。
もし、正方形の高さがもっと高ければ、水の溜まる高さは、高くなった正方形の高さになるはずです。
ですから、次の図のように口径16mm側のソケットの口に、適当な長さに切断した同口径の塩ビ管を差し込めば、水は塩ビ管の長さ分までの深さに溜められます。
仮にポンプ槽の水が減りすぎて空回りを起こしてしまい、アクアポニックスシステム内の水の循環が滞ってしまっても、魚飼育容器の水は塩ビ管の高さで一定に保たれます。魚は、干上がらずに安心です。
この方法が、一定の高さを超えた分の水だけをあふれさせて流下させる、オーバーフローという仕組みになります。
仕組みとしては、これだけでも十分ですが、さらに一工夫加えたものが次の図です。サヤ管によるサイホン方式という仕組みです。
大した工作ではありません。先ほどの立てた塩ビ管の外側に、もう一本、水面より少しだけ先が出るような長さに切った、少し口径が太い管を立てて、二重にしただけです。
太い側の管を、工事用語でサヤ管と呼びます。
サヤとは『鞘』です。
侍が抜く『刀』と、刀を納める筒状の入れ物である『鞘』の関係に見立てて、二重にした管の外側の管はサヤ管と呼ばれています。
サヤ管の下側は、平らではなく、わざと少しぎざぎざに切断して、立てたとき、魚飼育容器の底と管の下側の間に少し隙間ができるようにしておきます。
オーバーフロー方式では、あふれて流下する水は、水面に近い場所の水です。
容器の底付近にある水は、水の流れには乗れません。
例えば、魚の糞はもちろんですが、飛んできた土や砂、細かい塵のようなものが水中に落ちた場合、やがてそれらは、水底に沈殿して溜まります。
オーバーフロー方式の場合、底に沈んだゴミは、基本的に沈んだままです。
けれども、サヤ管によるサイホン方式の場合、水は単純に上からあふれるのでなく、水底付近から一度太いパイプと水底の隙間を通って管内に引き込まれ、太い管と細い管の間を上昇した後、あふれて細い管の中を流下します。
水中の沈殿物は、水の流れに乗って、魚飼育槽の外へ排出されます。
したがって、魚飼育槽の中は、沈殿物がない状態に保たれます。
万が一、太いパイプと水底の隙間や太い管と細い管の隙間が、ゴミで詰まってしまった場合は、グローベッドの砂利が目詰まりした場合と同じで、魚飼育槽の水は、溜まる一方です。
けれども、太い管の上側の縁より水位が上がると、水はあふれて、細い管を流下できるようになるので、心配ありません。図の赤い矢印の流れです。
サヤ管の詰まりに気づいた時に、管を持ち上げて、ゴミをとれば、水は再び、サヤ管の中を流れます。
とはいえ、魚飼育槽から排出された沈殿物は、ポンプ槽でポンプに吸われて、再び、魚飼育槽に戻されるか、グローベッドへ運ばれます。
グローベッドの砂利を目詰まりさせる原因となるので、水中に沈殿物があり、魚の鑑賞が妨げられるほうが良いか、グローベッドが目詰まりするまでの周期が長くなるほうが良いかは、悩ましい問題です。
筆者は、いつでも魚を鑑賞できるように、サヤ管方式を選択しています。
実は、サヤ管方式であれ、オーバーフロー式であれ、どちらにも共通する致命的な欠点があります。
例えば、外から飛んできた葉であったり小さな魚が、上から細い管の中に入り込んで管の内部を詰まらせてしまうと、水の出口がなくなってしまいます。
けれども、魚飼育槽にはポンプで水がどんどん送られてきますので、やがて溜まりに溜まった水は、魚飼育槽水の上からあふれだしてしまい大惨事です。
そうならないよう、筆者は、魚飼育槽に別の穴を開けて管を接続し、万が一の際の水の逃げ道を確保しているのですが、それはまた別の話です。
穴開けなしのアクアポニックスから次のステップへ、発展した際の工夫も色々あるのですが、その話は、いずれまたします。
以上が、魚飼育容器の減水対策の工夫です。
いずれにしても、ポンプ槽の水は毎日確認して、減った分の水は、必ず足さなければいけません。
作物が水を吸う現象は、アクアポニックスの健全な現象です。