1.アクアポニックスって何?

アクアポニックスの基礎知識

はじめに』で、アクアポニックスとは、魚を飼いながら、魚の老廃物を肥料にして、植物を育てる行為だと書きました。

 アクアポニックス(aquaponics)という言葉は、アクアカルチャー(aquaculture・水産養殖)とハイドロポニクス(hydroponics・水耕栽培)からなる造語だと言われています。

 誰かに説明をする際、筆者は「水耕栽培の有機栽培」という、わかりやすいのか、わかりづらいのか、よくわからない説明をしています。

 そもそもの水耕栽培と有機栽培を承知されている方であれば、なんとなく、「ああ、そんな感じね」とニュアンスをわかっていただけるのですが、農業や農法に造詣も興味もない方にとっては、全然ぴんとこない説明です。

 一般的な農業については、あえて説明の必要はないと思いますが、無茶を承知で物凄く簡略化して話をしますと、田畑の土に作物の種を蒔いたり苗を植えて、作物の根を土中に張らせて育てる栽培法を使う農業が、一般的な農業です。

 作物を成長させるための栄養分として化学肥料(無機物から栄養分を化学的に合成してつくる肥料であるため「無機肥料」とも言います)を使い、病害虫を防除するためには、農薬を使います。

 一般的な農業の栽培法に対して、水耕栽培では土は使わず、植物の根を張らせるための専用の培地に種を蒔いたり苗を植えて、培地を水に浮かべたり、培地内に定期的に水を通過させて作物を育てます。水には、適正な濃度の化学肥料(液肥)を含ませておき、植物は水から栄養を吸収して成長します。

「培地って何?」という点については、話が本題から外れてしまうので、ここでは説明を省略しますが、いずれ説明の機会があると思います。一言で言うと、植物が土の代わりに根を伸ばす物のことです。

 一方、有機栽培とは、化学肥料(無機肥料)を使わず、有機物由来の肥料で、作物を育てる栽培法です。

 例えば、牛や豚といった家畜の糞に落ち葉等を混ぜた物(要するに有機物の集まりです)を発酵させて堆肥をつくり、できた堆肥を肥料として利用し、作物を育てます。

「土の団粒構造が」とか「窒素・リン酸・カリ以外の微量元素が」とか、言い出すと話がどんどんずれていくので、ここではやはり省略します。

 一般的な農業に対して、有機栽培で行う農業が、いわゆる有機農業です。

 ちなみに、こだわりのある有機農業家の方々は、堆肥を自分でつくりだすために家畜も飼います。そのため、作物の栽培技術とあわせて、家畜の飼育技術も必要です。また、農薬を使わず、別の知恵と技術で病害虫の防除も行います。

 アクアポニックスの場合は、作物の栽培技術と魚の飼育技術の両方が必要です。

 筆者の実力のほどを正直にお話ししますと、筆者より上手に魚を飼育できる人は、山ほどいます。

 筆者より上手に作物を栽培できる人となると、それ以上に山ほどいます。

 けれども、魚を飼育しながら、植物を同時に、それなりに栽培している人となると、プロを除くと、多分、そう多くはいません。その中のそこそこぐらいの立ち位置が、筆者の実力です。

 なので、この先、間違っていたり、勘違いした話をしてしまうかも知れませんが、どうか発見された方は、ご指摘ください。こっそりと訂正いたします。

 話がずれました。

 雑駁ですが、以上が、水耕栽培と有機栽培、一般的な農業と有機農業の超簡単な説明です。

 記憶が定かではありませんが、30年近く前、とある農業大学で学んでいた時、植物を栽培するために絶対必要な三つの要素として、当時の教授が「水」と「光」と「栄養素」という話をしていた気がします。「土」は植物が根を張り、自分の体を支えるための物だから、その目的さえ果たせるのであれば、必ずしも「土」でなくてもいいんだよと、恐らくそんな話であったような・・・。要するに、その土代わりになる物が「培地」です。

 さて、そこで、アクアポニックスです。

 家畜が糞尿をするように、餌を食べれば、もちろん魚も糞尿をします。

 有機栽培では、家畜の糞尿からつくった堆肥を肥料に使いますが、アクアポニックスでは、魚の糞尿ほかの排泄物から液体の肥料(液肥)をつくって使います。

 堆肥の場合、有機物を発酵させてつくるという話を、先ほど書きました。

 牛や豚なら、糞は地面に落ちるだけですから、集めて堆肥をつくれますが、魚は水中で糞をするため、糞はすぐ水に溶けたり、流されてしまいます。

 ですから、糞を集めてどうにかしようというのではなく、水そのものを、きわめて薄い濃度の液体肥料に変化させます。

 一般的な水耕栽培の場合は、化学的に無機物から濃縮された状態でつくりだした液肥を、規定の濃度まで水で薄めて使用しますが、アクアポニックスでは、既に薄められた状態の液肥をつくりだして、その水で、水耕栽培を行う形です。

「水そのものを、きわめて薄い濃度の液体肥料に変化させる」と書くと、そんな水の中で飼育されるなんて魚が可哀想という気がしますが、そもそも自然界にある水の中には、自然由来の肥料成分・栄養成分が何かしら含まれています。

 小学生の頃、落ち葉や死んだ生き物が虫に食べられ、虫が糞をして土に帰り、土の中の肥料成分を、土に根を張った植物が吸収して成長する、といった、生態系の模式図的なお話を習った覚えがあるかと思います。

 先述した家畜糞から堆肥をつくる話もそうですが、アクアポニックスの基本は自然界の仕組みを、人工的に再現して作物の栽培に活かそうという行為です。

 もちろん、水中に含まれる肥料成分が、一定濃度以上に濃くなってしまうと、魚は健康を壊しますし、死ぬ場合もあります。

 過ぎたるは尚及ばざるがごとし。毒にも薬にもなる、という話です。

 けれども、水清ければ魚住まず、で、塩素で十分に殺菌消毒されたままの水道水では、やはり魚は死んでしまいます。

 塩素同様、水中に過剰に溶け込んでしまうと、魚を殺してしまう恐れがあるため、作物を病虫害から防除するための農薬も、アクアポニックスでは、極力、使いません。

 筆者が、アクアポニックスを「水耕栽培の有機栽培」と例えた理由が、何となく、わかっていただけましたか?

 それとも、やっぱり、わかったのか、わからなかったのか、よくわからない?

 だったら、習うより慣れろ、です。実践しましょう。

 ところで、魚の糞を液肥にするためには、濾過という行為が必要です。

 また、理屈の話になってしまいますが、濾過は、魚飼いとアクアポニックスの基本になりますので、実践の前に、もう少し、理屈におつきあいください。

 具体的な濾過についての話は、項を改めて、次回します。

かにかに