4.水のPHとアクアポニックス

アクアポニックスの基礎知識

 ところで、硝酸態窒素という言葉には、『酸』という文字が入っています。硫酸や塩酸同様に、硝酸もまた酸性を示します。

 一方、アンモニアは、アルカリ性です。

 水道水は、ほぼ中性を示します。

 小学校の理科の時間にリトマス試験紙の色変化の覚え方で、「赤から青はアルカリ性」と信号になぞらえて習った記憶が、筆者はありますが、アンモニアが硝酸態窒素に変化する過程で、飼育水のPHは、アルカリ性から酸性へ変わります。リトマス試験紙の色変化で言えば、青から赤です。

 PHとは、水(に限るわけではありませんが、ここでは便宜的に水とします)の酸性度、アルカリ性度を示す数字で、1~14の14段階に分かれています。

 酸性でもアルカリ性でもない中間に位置する中性の値が、7です。

 地域によって微妙に異なりますが、先ほど話したとおり、水道水は、ほぼ中性になるように、浄水場で調整されています。

 7よりも値が小さければ酸性、7よりも値が大きければアルカリ性です。

 酸性の場合は数字が小さければ小さいほど、アルカリ性の場合は数字が大きければ大きいほど、濃度が濃い、すなわち、毒性が強い状態です。

 化学に詳しい方であれば、ここで『アルカリ性ではなく、塩基性と呼べ』といった突っ込みを入れたいところかも知れませんが、塩(えん)とか塩基(えんき)とか、はたまたイオンとか言い出すと話が難しくなってしまいますので、ここでは一般的にイメージしやすい、アルカリ性として話を進めます。ですので、テスト対策には不適切な知識だと思ってください。

 さて、魚飼育と濾過バクテリアの増殖、魚飼育水のPHの変化を時系列的に追いかけると次のようになります。

 はじめに魚を飼育し始めた段階では、水道水とほぼ同じ状態と考え、水質は中性です。

 このとき、もし濾過装置(アクアポニックスの場合は、水槽用の濾過装置ではなく、植物の栽培槽や筏にあたりますが、とりあえず水槽用の濾過装置をイメージしながら、読み進めてください)を同時に使用し始めていた場合、濾過装置内には、まだ十分な量のバクテリアが生息していません。

 濾過バクテリアには、様々な役割を持つ種類がいるという話を以前しましたが、最初に増殖するバクテリアは、直接、有機物という餌にありつくことになる、有機物からアンモニアをつくりだすバクテリアです。

 したがって、水質は中性から、アンモニアのアルカリ性に傾きます。

 アンモニアを亜硝酸態窒素に変える濾過バクテリアや、亜硝酸態窒素を硝酸態窒素に変える濾過バクテリアは、それぞれ自分の餌となるアンモニアや亜硝酸態窒素が水中にないと増殖できませんので、第一段階として十分な量のアンモニアを亜硝酸態窒素に変える濾過バクテリアが増殖するまでは、水中にはアンモニアが貯まる一方です。

 つくられたアンモニアの量に対して、水量が圧倒的に多ければ問題ないのですが、水が少ないとアンモニアの濃度が濃くなりすぎ、PHは高くなります。

 水産用水基準という、魚を養殖する際に適した水質を決めた基準の数字があるのですが、湖沼河川で魚を養殖する場合に適正とされるPHの値は6.7~7.5とされています。少しでも基準を外れたら、すぐに魚が死ぬというわけではありませんが、大きく逸脱した場合は、支障が生じます。

 魚を飼育したばかりで、まだ様々な種類の濾過バクテリアが十分に増殖していない状態だと、あっという間に水質が悪化して魚を死なせてしまう場合があります。その原因の一つがこのアンモニアです。

 濾過バクテリアが、アンモニアを亜硝酸態窒素に変化させる量よりも、水中へのアンモニアの蓄積量が多い場合、水量が少ない容器では、水でアンモニアを薄めきれずに、PHが7.5よりも遙かに高くなりすぎて、魚が死んでしまいます。

 ちなみに、農業用水基準という基準もあり、例えば水稲の場合は、適正なPHの値は6.0~7.5と、魚を養殖する場合よりは、若干、幅があります。

 濾過初期につくられたアンモニアによるショックで魚が死なず、その後、各種の濾過バクテリアが十分に増殖された場合、水中のアンモニアは、亜硝酸態窒素を経て、硝酸態窒素に変化します。

 硝酸態窒素は酸性であるため、当初、中性からアルカリ性側に変化した水のPHは、途中、中性状態である7.0を経て、6.5、6.0と、蓄積した硝酸態窒素の量が増えるにつれて、次第に酸性方向へ傾いていきます。

 そのまま放置しておくと、やがては魚が生息できるPHの限界を超えた強い酸性となり、魚は死んでしまいます。水槽に濾過装置がついていても、時間がたつにつれ、水替えをしないと魚が死んでしまう理由は、そのためです。

 一般的に、魚を容器で飼育するといった閉鎖環境内の水中に蓄積した硝酸態窒素は、そのままではなくなりません。以前の話の繰り返しとなりますが、水を替える方法が一番簡単な対策で、植物に肥料として吸収してもらう方法が、アクアポニックスです。

 植物が水中の硝酸態窒素を吸収すると、その量見合いで、水はアルカリ性に傾きます。(厳密には、硝酸態窒素がなくなるからアルカリ性になるわけではなく、硝酸態窒素に対応する水素イオンの問題なのですが、話が難しくなるため説明は省きます)

 したがって、濾過当初、十分な量のアンモニアを亜硝酸態窒素に変える濾過バクテリアが増殖するまで、水中にはアンモニアがたまる一方だという話をしましたが、ここでは、肥料として水中の硝酸態窒素を十分に吸収するだけの植物の繁茂がなければ、水中には硝酸態窒素が貯まる一方です。

 さきほどの水産用水基準や、農業用水基準の範囲内におさまるように、水を中性前後に保つためには、つくりだされる硝酸態窒素の量よりも、植物が吸収する硝酸態窒素の量の方が多いか、ほぼ同じであることが大切です。

 ですので、アクアポニックスを成功させるポイントは、植物の量となります。

かにかに