6.脱窒の検討

アクアポニックスの基礎知識

 蛇足ですが、閉鎖環境ではない自然界では、海でも湖沼河川でも水中や陸上で植物と繋がっているので、それらの植物が硝酸態窒素を肥料として吸収しています。

 けれども、水中に溶け込んだ硝酸態窒素の多くは、もっと単純に、気体の窒素に変化して、空気中に放出されます。

 この現象を脱窒(だっちつ)と言います。

 小学校だったか中学校だったかの理科の時間に、地球の空気の成分は78%が窒素で、21%が酸素で、その他が1%なのだと習いました。酸素じゃないんだ、と驚いた覚えがありますが、今では、もしかしたら空気中の窒素78%の内の何割かは、脱窒の結果なのじゃないかしらと思ったりもします。本当の理由は知りません。

 自然界では、水中の硝酸態窒素が、気体になって出て行く現象が当たり前なのに、水槽のような人工的な閉鎖環境では、硝酸態窒素は、なぜ蓄積するばかりなのでしょうか?

 その原因は酸素にあります。

 実は、これまで話してきた各種の濾過バクテリアたちは、好気性細菌と呼ばれる仲間に属しています。

 好気性とは、酸素が好きという意味に他なりません。活動する上で、酸素を必要とする者たちです。

 脱窒もある種のバクテリアが活動して、硝酸態窒素を、気体の窒素に変える役割を果たした結果なのですが、この活動を行うバクテリアは、嫌気性細菌と呼ばれる仲間です。

 もちろん、嫌気性とは、酸素が嫌いという意味です。

 酸素がないところ、もしくは極めて薄いところに好んで棲みます。

 好気性細菌と嫌気性細菌は、生息環境が真逆に当たるため、酸素がある場所と酸素がない場所が必要になるので、水槽のような狭い閉鎖環境内では、共存が非常に困難です。

 また、魚が生きるためには、水中に多くの酸素が必要です。

水中に酸素を供給する様子。

 例えば、金魚すくいの容器のように、少ない水に多くの金魚を泳がせると、酸素が不足して水面近くでぱくぱくと苦しそうに呼吸をする鼻上げという行動を起こしますが、さらに酸素が不足すると、やがて窒息して死んでしまいます。

 ですから、一般的に魚を飼育しようとする場合には、極力、水中に酸素がまんべんなく溶け込み続けるように努めます。水中の一部に嫌気的な空間をつくり、脱窒のための嫌気性細菌の生息場所を確保する行為は非効率的であるうえ、技術的にも困難です。

 したがって、魚の飼育水中に蓄積する硝酸態窒素対策は、水替えが基本とされています。

 アクアポニックスの場合は、この脱窒に代わる役割を、植物に硝酸態窒素を供給させることで補いますので、水中に好気性細菌と嫌気性細菌それぞれの生育環境を生み出そうとする必要は、最初からありません。

 筆者のように、魚飼育を趣味としているものの、日々の水替えを面倒くさいとか大変だと感じている魚飼育者には、ぜひ、アクアポニックスに取り組んでいただきたいと思います。

 作物を育てる手間は増えますが、水替えの手間に比べれば、大した手間ではないというのが、筆者の実感です。

 そのうえ、食材も手に入ります。

 また、アクアポニックスだからといって、栽培する植物は、必ずしも野菜である必要もありません。

 花であったり、テラリウムや最近はやりのパルダニウムのように観葉植物を栽培するという選択肢もあります。

 いずれにしても、濾過設備の拡充は、魚の飼育環境の改善に繋がります。

 ハードな魚飼育者で、「水道の配管と水槽を直結して、いつか水替えを全自動にしたいなあ」などという野望を抱いている方には、一度、アクアポニックスに取り組みませんか、というのが、似た者の仲間を増やしたい筆者からのお勧めです。

 特にネットで「脱窒」という言葉を検索したら、本サイトに辿り着いてしまったという方は、まさしく「似た者」にあたります。

「脱窒」にお悩みのあなたほど、アクアポニックスを。

かにかに