ここまで、しれっと『濾過バクテリアの生息場所となる作物の生産面積は』といったような表現をしてきました。
実際のところ、濾過バクテリアは、どこに生息しているのでしょうか?
答えは、水に濡れた何らかの物質の表面です。
例えば、風呂桶のような直方体型の魚を飼育している容器や、いわゆるガラス水槽の場合、濾過バクテリアは、水に浸かった底面と四方の壁の表面に生息しています。
もし、その水面にホテイ草のような浮き草が浮かべられているとしたら、水中に垂れたホテイ草の根の一本一本の表面にも、濾過バクテリアは生息しています。
また、もし水槽の底に砂利が敷き詰められているとしたら、砂利の一粒一粒の表面にも、濾過バクテリアは生息しています。
水に濡れている何らかの物質の表面積に相当する部分こそが、まさしく濾過バクテリアの生息場所です。
以前、『一般的に売られている水槽用の各種濾過装置の場合は、装置内部が濾過バクテリアのすみかになる』というお話をしましたが、より厳密には、装置内部にある濾材の表面に、濾過バクテリアは住み着いているわけです。
水槽の壁面にも濾過バクテリアはいるにはいますが、濾材こそが、濾過バクテリアの主なすみかです。
濾過装置用の濾材は、様々な水槽器具メーカーから、様々な製品が販売されていますが、どの製品も濾材の体積当たりの表面積が、少しでも大きくなるように工夫されています。というのは、先ほども言いましたが、濾過バクテリアの生息場所こそ、まさしく濾材の表面積に当たる部分だからです。
体積当たりの表面積が少しでも大きくなるように、とはどういうことでしょうか?
例えば、砂利は、水槽器具メーカーが開発したわけではなく、一般的に昔から使われている濾材の一つにあたりますが、砂利一粒あたりの表面積は、前後左右上下から見たまんまの、砂利の外側全体です。
天然素材なので実際にはあり得ませんが、もし、砂利の1粒が一辺1cmの正立方体(ようするにサイコロの形です)だったとした場合、表面積は1cm×1cmの面が六面ありますので、6平方センチメートルです。体積は1cm×1cm×1cmで、1立方センチメートルです。
でも、もしその砂利が、一辺1cmではなく、0.5cmであったとしたら、どうなるでしょう?
体積は、0.5cm×0.5cm×0.5cmなので、0.125立方センチメートルです。
さきほどの一辺1cmの正立方体の体積は1立方センチメートルなので、同じ体積にするためには、1÷0.125=8で、8粒必要です。
このとき、1粒の表面積は、0.5cm×0.5cmが六面なので、1.5平方センチメートルです。
8粒ならば、1.5平方センチメートル×8なので、12立方センチメートルです。
体積は同じなのに、表面積を比べると、1対12の違いがあります。
これが、体積当たりの表面積が大きいということです。
では、もし、先ほどの一辺0.5cmの砂利に、針で刺したような、小さな穴が沢山開いていたとしたら、どうでしょう?
穴は、砂利を貫通している場合もありますし、砂利の途中で終わっているかもしれません。また、砂利の中で、穴と穴がぶつかって、繋がっている場合もあるでしょう。
もし、この無数の針で刺したような穴がある砂利を水中に沈めたとしたら、水は砂利の外側だけではなく、穴を通って砂利の内部まで濡らすはずです。
濾過バクテリアが、水に濡れた何らかの物体の表面に生息するとしたら、水に濡れた砂利の内部もまた、濾過バクテリアの生息場所として成立します。
針穴の数を増やせば増やすほど、砂利の内部までを含めた、砂利の表面積は増えていきます。
普通の堅い砂利に針で穴を開けることは困難ですが、火山岩や軽石であれば、天然状態で無数の穴が開いているため、砂利よりも表面積は広くなるでしょう。
筆者が軽石を使用する理由は、そこにあります。
この小さな穴が沢山ある分だけ表面積が広くなる仕組みを模して、『小さな沢山の穴』という意味で『多孔』という言葉を使い、一般的に多孔質濾材と呼ばれるタイプの濾材が、水槽用の各種濾過装置向けにつくられています。
ホビーアクアポニックスであれ、ビジネスアクアポニックスであれ、基本的にはアクアポニックスでの濾過バクテリアの生息場所も同じです。
水に濡れた何らかの物質の表面です。
アクアポニックスシステムの場合、水槽用の濾過装置を併用する場合もありますが、植物の栽培槽と植物栽培用の筏が、濾過バクテリアの二大生息場所です。
まず、植物の栽培槽とは、どういうものでしょう?
一言で言ってしまうと、大きな植木鉢です。
植木鉢やプランターのような水抜き穴のある容器に、砂利などの濾材を敷き詰め、魚を飼育している水槽の水をポンプで吸い上げて、濾材にかけ続けます。
濾材は濡れますので、当然、濾過バクテリアの生息場所となり、濾過が行われ、硝酸態窒素がつくられます。
同時に、濾材を作物栽培の培地として、苗を植えたり、種を撒いたりして、作物を育てます。
作物は、濾材内に根を張り、硝酸態窒素を吸収します。
濾材にかけられた水は、植木鉢やプランターに開いた穴から流れ出しますが、その水が水槽内に流下して戻るようにすれば、水が、魚の飼育容器と濾材の間を常に循環する、簡単なアクアポニックスシステムが形成されます。
この濾材を敷き詰めた作物の栽培槽を、アクアポニックス用語ではグローベッドと呼んでいます。
一方、植物栽培用の筏とはどんなものでしょう?
やはり一言で言ってしまうと、穴の開いた水に浮く板です。
一般的なのは、発泡スチロールの板に、直径数センチメートルの沢山の穴が開けられた物です。穴の一つ一つに、スポンジなどで作物の根を挟んで植え、水中に根を張らせて、作物を育てます。
さきほど、ホテイ草の根についた濾過バクテリアの話をしましたが、発泡スチロール筏の場合は、同様に水に触れた筏の裏面と、筏の下に広がる作物の根が、濾過バクテリアの生息場所になります。
とはいえ、作物の成長具合に応じて、根の量は変わりますし、作物を根こそぎ収穫してしまうと、文字通り、根はなくなります。
グローベッド方式に比べて、濾過能力が不安定という欠点があるため、通常は、水槽用の濾過装置や、グローベッドを併用して、濾過能力を高めます。
一方、長所は、発泡スチロールの板程度の材料ですむため、濾過装置や濾材に比べて、購入費用が安上がりです。
グローベッド方式と発泡スチロール筏方式の具体的な製作方法は、今後、紹介する予定です。
(執筆掲載の順番は逆になりましたが、『第0章 初心者向けの簡単なアクアポニックスの製作』でグローベッドの製作について、紹介していますのでお読み下さい)
ビジネスアクアポニックスであれば、経費削減のため発泡スチロール筏の導入を考えたくなりますが、ここで紹介する取り組みはホビーアクアポニックスのため、まず、濾過能力が確実に確保されるグローベッド方式をお勧めします。
もし、発泡スチロール筏に取り組むのであれば、メインの濾過槽であり栽培槽となるグローベッドを設置した上で、さらに増設する形で作物栽培用の筏槽を設置すると失敗の確率を下げられます。
できれば、まずグローベッド方式でスタートして、自信が付いたら、筏方式に取り組むようにして下さい。
かにかに