1.水だけ槽の設置

メダカポニックスのすすめ

『アクアリウム(魚飼育)』と『ハイドロポニックス(水耕栽培)』を合成した造語が、『アクアポニックス』であるという話を、最初にしました。

この章では、さらに言葉を合成して、メダカ飼育とアクアポニックスの両立である『メダカポニックス』の実践について、お話しします。『メダカポニックス』とは、メダカ飼育でアクアポニックスを行うことを意味する筆者の造語です。一般的な用語ではありませんので、ご承知おきください。

さて、他の章でお話をしてきたとおり、アクアポニックスの仕組みは物凄く単純です。

魚を飼育している水をポンプで吸い上げて、軽石や砂利といったろ材の中を通過させた後、再び、魚を飼育している容器に流下させて戻します。

または、魚を飼育している容器からあふれた水を、軽石や砂利といったろ材の中を通過させた後、ポンプで吸い上げて、再び、魚を飼育している容器に戻します。

その際、ろ材に種を蒔いたり苗を植えて、魚だけでなく、植物も同時に育てようという、それだけの話です。

向き・不向きはありますが、趣味としてであれば、魚や植物の種類は何であっても構いません。

同様に趣味であれば、肥料成分がどうとか収穫量がどうという、面倒な話も考える必要はありません。魚が健康に生きている環境を保てば、それなりに植物は育ってくれます。

本章ではメダカでアクアポニックスを行う場合の工夫について、特化して話をします。

ところで、メダカの特徴とは何でしょうか?

もう十年以上ブームが続いていますが、近年、観賞魚の世界では、メダカ飼育が盛んです。

様々な色や形の新品種と言われるメダカが、毎月のように発表されています。

以前であれば、初めて飼育した観賞魚は『金魚すくいの金魚』です、という方が多かったのですが、初めて飼育した観賞魚は『メダカ』です、という方が増えています。

通常品種のメダカは、一尾(または雌雄一組)数百円程度ですが、新品種のメダカであれば、一尾(または雌雄一組)数千円や数万円といった値段がついていることもあります。

メダカは繁殖が簡単なため、つい、高くても新品種の親メダカを購入して、繁殖させてうまく殖やせば一攫千金、なんて皮算用をしたくなってしまいます。

小さくて、綺麗で、場合によっては、びっくりするほど高い魚というのが、一般的なメダカのイメージではないかと思います。

その他にも飼育が簡単な魚であるとか、繁殖が簡単な魚といったイメージもあるかもしれません。

筆者が思うメダカの一番の特徴は何かというと、小さい点です。

成魚になっても、体長3~4センチメートル程度なので、金魚すくいに使われている金魚よりも、小さいぐらいです。

また、簡単に産卵して稚魚が生まれるので、まだ成魚にはならない大きさのメダカもよく見かけるため、全体的には体長3~4センチメートルよりも、もっと小さくて細長い魚だというイメージが、筆者には強くあります。

わざわざ、メダカ飼育用のアクアポニックスの説明を別項にした理由はそこにあります。

メダカは体が小さいため、金魚や鯉のように大きくなる魚と同じアクアポニックスシステムで、何も工夫をせずにメダカを飼育してしまうと、排水口から水と一緒に流れ出してしまったり、ポンプに吸い込まれて死んでしまう恐れがあるため、その対応をまとめておきたいと思ったためです。

さて、次の図は、今まで散々お見せしてきました、一番簡単なアクアポニックスの基本形の模式図です。

丸印はメダカにとって危険な場所です。特にポンプは致命的です。

丸で囲んだ部分が、メダカにとって危険な場所になります。

特に一番下の丸は、ポンプに直接吸い込まれてしまう、最も危険な場所となります。

ですので、その部分には、絶対に吸い込まれたくありません。吸い込まれないための対策が必要です。

魚にある程度の大きさがあれば、排水口よりも体が大きいため流れ出さずにすんだり、ポンプに吸い込まれそうになっても、水流に逆らって泳いで逃げたりが可能です。

けれども、メダカは小さいので、ちょっとした穴でも通り抜けてしまいますし、泳力もありません。

それどころか、時に積極的に水の流れに乗って、下流に下ろうとする習性があります。

自然界では、季節によって、水田のような止水域と、用排水路のような流れのある場所を行ったり来たりしていますので、そのためでしょう。

そのようなメダカの習性に対して、筆者が考える一番簡単で効果がある対策は、メダカ飼育槽とポンプ槽の間に、水だけが入った槽を挟むことです。

ポンプ槽の前に水だけ槽を挟めば、もし魚飼育槽からメダカが流れ出しても、ポンプ槽まで辿り着く前に発見できるかもしれません。

もし、メダカがメダカ飼育槽から流れ出してしまっても、すぐポンプ槽に到達するのではなく、ワンクッション、水だけが入っている槽を挟んでおけば、流れ出したメダカが、水だけが入っている槽を泳いでいるところを見つけられます。

見つけたら、網ですくって、メダカ飼育槽に戻せばいいだけの話です。

一槽だけでなく、二槽、三槽と水だけ槽を複数挟めば、万が一、メダカが魚飼育槽から流出してしまっても、ポンプ槽まで辿り着く前に、発見できる可能性が高くなります。

複数の水だけ槽があれば、その分、簡単にはポンプ槽まで流れていきません。

問題は、水だけの槽を置けば置くほど、無駄にスペースをとってしまう点ですが、以前お話しした横連結式アクアポニックスシステムの方法(横連結式グローベッドの製作)を使って、水だけ槽の上に作物栽培槽を設置してあげれば、無駄なスペースではなく、作物の栽培スペースとして活用できます。

水だけ槽の上に、作物栽培槽を置けば、スペースの無駄もなくなります。冬枯れの写真なので、何も作物はありません。

水だけ槽の製作に、穴あけ工作が必要となってしまいますが、おすすめの工夫です。

穴あけ工作は難しいと感じられる方には、次のような対策もあります。

その対策については、また次回。

かにかに